飛べない天使の子
「小5の時、突然女の子に触れられた箇所から毛が生えるようになったんだ」
裏道で王子を真ん中にして並びながら、話を聞く。
こういう時に体育座りって決まっているのかな。
「誰に相談すればいいのか分からなくて秘密にし続けた。極力女の子には近付かないようにして。高校に入って治ったことを期待して、付き合ってみたけど……駄目だった」
王子はズボンの布をぎゅっと掴んだ。
不謹慎だけどキュンとしてしまった。
「それからは自暴自棄で告白されたら付き合うけど、触ろうとする子は、」
「すぐにフってしまうと」
「…自分でも最悪な人間だなと思う。でも怖いんだ」
「幻滅が?」
「だぁ! もう! 至はいちいちうるさい! 王子が喋ってんだから茶々入れるな! 傷を抉るな!」
「いいよ。本当のことだし」
そう言う王子が酷く寂しそうで悲しそうで、何だか泣きたくなった。
王子ともてはやされる人がこんなに孤独で可哀想な人だなんて……
「私は幻滅しない。むしろ王子に興味が湧いた! ねぇ至?」
「まぁな。驚きはしたけど……モテるのに女とセッ「下品。王子の前で言うな」…可哀想だな」
「私達が治すよ王子の体質」
「謝礼はもらうぞ」
「至には拳骨あげるよ」
「……」
「王子?」
「気持ち悪いとか思わないの?」
「「全然っ!」」
「俺体毛濃いしー」
「大丈夫だよ王子。こんなキモい奴が世の中居るんだよ。王子のちょっと特殊な体質なんて屁でもないよ」
「それ俺に失礼」
王子は目尻に涙を溜めながら笑った。
くつくつと、しだいに声をあげて。泣きながら笑った。
私は余計苦しくなって、至を見た。
至は立ち上がって私に近付き頭を撫でてくれた。
私も王子を撫でてあげたかったけど、髪から毛が生えたら怖いから止めておいた。
もう王子の頬に毛はなかった。