飛べない天使の子




「小5の時、突然女の子に触れられた箇所から毛が生えるようになったんだ」


裏道で王子を真ん中にして並びながら、話を聞く。
こういう時に体育座りって決まっているのかな。


「誰に相談すればいいのか分からなくて秘密にし続けた。極力女の子には近付かないようにして。高校に入って治ったことを期待して、付き合ってみたけど……駄目だった」


王子はズボンの布をぎゅっと掴んだ。
不謹慎だけどキュンとしてしまった。


「それからは自暴自棄で告白されたら付き合うけど、触ろうとする子は、」

「すぐにフってしまうと」

「…自分でも最悪な人間だなと思う。でも怖いんだ」

「幻滅が?」

「だぁ! もう! 至はいちいちうるさい! 王子が喋ってんだから茶々入れるな! 傷を抉るな!」

「いいよ。本当のことだし」


そう言う王子が酷く寂しそうで悲しそうで、何だか泣きたくなった。
王子ともてはやされる人がこんなに孤独で可哀想な人だなんて……


「私は幻滅しない。むしろ王子に興味が湧いた! ねぇ至?」

「まぁな。驚きはしたけど……モテるのに女とセッ「下品。王子の前で言うな」…可哀想だな」

「私達が治すよ王子の体質」

「謝礼はもらうぞ」

「至には拳骨あげるよ」

「……」

「王子?」

「気持ち悪いとか思わないの?」

「「全然っ!」」

「俺体毛濃いしー」

「大丈夫だよ王子。こんなキモい奴が世の中居るんだよ。王子のちょっと特殊な体質なんて屁でもないよ」

「それ俺に失礼」


王子は目尻に涙を溜めながら笑った。
くつくつと、しだいに声をあげて。泣きながら笑った。

私は余計苦しくなって、至を見た。
至は立ち上がって私に近付き頭を撫でてくれた。

私も王子を撫でてあげたかったけど、髪から毛が生えたら怖いから止めておいた。

もう王子の頬に毛はなかった。


< 7 / 40 >

この作品をシェア

pagetop