物の気持ち絵本(絵なし)短編集
まくらの気持ち
僕はいつもがんばってる

どんなにつぶれたって

どんなに苦しくたって


でも、もうがんばれないや…

昨日ね、僕のおでこによだれがたれてきた

今までよりたっくさん

今までいっぱい我慢してきたけど

もう我慢できない

それにね

この間なんてこんなことがあったんだ

僕の服を洗濯してくれたんだけど…

その日の夜は僕に服を着せてくれなかったんだ

とても寒かった

だって冬だったんだもん

それにねそれにね

僕をギュッと強く抱きしめるんだ

あんまり強く抱きしめられたからとても苦しかった

それからも僕の上でいっぱい大きいいびきをかくし

僕をたまに投げたりする

もう他の家に行ってやる

今日から家出をするぞ

今日でこの家にいるのは最後だ

そう決めて家を出ようとした

でも誰かが帰ってきたからあわててタンスの中に逃げ込んだ

すきまからこっそりと覗いて見てみると

「まくらがない」

そう言って必死に探している

必死に必死に探している

でも僕はタンスの中

見つかりっこない

結局その日は僕なしで眠ったみたい

…なんだか苦しそう

いつものよだれも、いつものいびきもないみたい

そう思うと胸が苦しくなった

タンスからこっそりと出てベッドの上に戻った僕

何も言わずに僕の上に頭を乗っけた

「やっぱりまくらがないとだめだ」

それを聞いたらうれしくなった

明日からまたがんばろうかな

でももう少し大切に使ってね

たくさんのよだれと大きいいびきの中でそう思った
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