『契約』恋愛
ドアが開くとともに、俺の体を包んだ秋の冷たい風。小さく身震いして横を見れば、店の前に設置してあるベンチに腰掛ける雪乃の姿。
「あ、風春。」
「おう。待たせて悪かったな。」
立ち上がろうとする雪乃を制し、その隣に俺も腰掛けた。
「…何か、あった?」
「ん、いや。それより雪乃、左手出して。」
「左手?」
「そう、左手。」
不思議そうに、訝しげに差し出された左手。そっとその手に触れると、待たせてしまったからか、伝わってきたのは驚くほどの冷たさ。
とりあえず自分の両手で、ぎゅっとその手を握りしめた。
「え。何?どうしたのよ。」
苦笑混じりのその言葉にゆっくりと雪乃の目を見れば、やっぱり不思議そうな顔をしていて。
「どうもしてねーから。ちょっとだけ目つぶってて。」
続いた俺の言葉にさらに不信感を募らせながらも、あらがうことなく素直に瞳は閉じられた。