『契約』恋愛

「……かざ、は、る。ごめ…ね。」

「気にすんな、バーカ。」


何が“ごめんね”だ、バカ野郎。
気にすることなんて、何一つないってのに…

そんな会話を交わすやいなや、ぴたりと止まった荒い呼吸音。

心臓が止まるかと思ったほど焦った俺を余所に、かすかに聞こえてくる規則的な寝息…


「ったく…。焦らせんなっつの。」


思わずそう呟いてしまうほど、盛大なため息も零れた。

見慣れた景色を歩き、ようやくついた自宅。つい数時間前、意気揚々と雪乃と家を出たのがまるで夢のようで。

苦もなく鍵を開けて中に入れば、朝と何も変わらない、殺風景な部屋が出迎えてくれた。
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