My darlin' Scientist〜私の彼氏は変わり者〜
しかし、なんでまた桂木所長はここに通うようになったの?
猫を撫で回しながら考え事をしていたら、先程のおじさんが話しかけてきた。
「桂木くんはね、僕の教え子だったんだ。大学で僕のゼミに所属していてね、優秀だったけど誰にも心を許さないような雰囲気を持つ学生だったよ」
なんでもこのおじさんは定年退職の三年前に教授職を辞し、趣味でこの猫カフェを開いたらしい。
「科学者らしからぬ考えだが、世の中なんでも理屈で説明できるって訳じゃない。理屈抜きで好きなものを一つは持ってないといつか潰れてしまうよ」
私の周りに寄ってきた黒猫を拾い上げ、彼は話し続ける。
「でも今日あなたをつれてきた桂木くんは、今まで見たどの彼よりも穏やかだよ。あなたのおかげだ」
私の、おかげ?
なにを言ったらいいかわからないでいる私から桂木所長に目をやったおじさんの表情は、まるで子供を心配する父親のものだった。
「私には子供がいないから、勝手に彼を息子だと思っているんだ。彼を、…桂木くんをよろしくね」
子供がいないおじさんと、親がいない桂木所長。
全くの他人なのに、そこには確かに親から子への愛情があった。
私は、涙ぐみながら何度も何度も頷く。
「ちょっと!早百合ちゃん誘惑しないでくださいよ〜」
脳天気な桂木所長の一言に、私たちは目を合わせて笑った。