ケイカ -桂花-
正妻が愛人を呼び出して、オヤジも一緒に3人での話し合いをするのだ。

いわゆる、シュラバってやつ。

そういう日私は、外で晩御飯を食べて遅く帰ってくることになっている。

そういう日、が1年に1回か、2回必ずある。

小さい時からずっと。

小さい頃はおばあちゃんに預けられていた。

おばあちゃん家に向かう前も、帰ってきてからも、お母さんの様子は全く変わらない。

いつもと同じ、優しくてかわいらしいお母さんのまま。

だからずっと気付かなかったが、私が中学生になった頃、オヤジがポロっと漏らした。

「明日、例の日だから、頼むなっ」

例の日?

「明日は今までよりちょっと厄介だからなー。遅めにな。なんなら泊まってきてもいいぞ」

何にも知らない女子中学生に、自分の娘に、愛人の存在を明かした。

つまりバカなのだ。

あの男は。

その翌日から私は「お父さん」から「オヤジ」に呼び方を変えた。

男の子が年頃になって、オフクロ・オヤジって呼ぶ時のオヤジじゃない。

その辺のおっさんを呼ぶ時のオヤジだ。

「なんかあのオヤジキモくない?」のオヤジだ。

私にとってはかなり大きな抵抗のつもりだったけど、オヤジは、

「息子が出来たみたいだな」

なんて笑ってた。

だから、バカなのだ。

あの男は。
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