ケイカ -桂花-
「考えとく」

それだけ言うので精一杯だった。

本当は「いいよ」と言う勇気が無かっただけ。

軽い女と思われたくない、という気持ちも少し働いた。

だから「宮崎の事よく知らないし」という言い訳も用意してみたが、その必要は無かった。

「分かった。答えが出るまで待ってるよ。ゆっくり考えていいよ、いつまででも待つから」

真剣な顔で言ってから、また照れた様に笑った。



いつまででも待つ-----

その言葉は、私をいい気分にさせた。

大切にされてるみたいな。

駅の汚いトイレの狭い個室で、持ってきた私服に着替えながら、初めての気持ちに少し戸惑ってるけれど、悪くない。

体の中に小さな泉が湧いたみたいに何かが流れ出る。

水よりも、うーんと甘い何かが。
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