きみと、もう一度
セイちゃんより少し遅れて教室にたどり着くと、そこにはもう卒業ムードで一式だった。デジカメのシャッター音がそこらじゅうで鳴り響き、サイン帳が色んな所に散らばっている。
「ちなー! どうしたの卒業式に遅刻なんて。写真撮ろうよ!」
真美がデジカメを振り回しながら駆け寄ってきて、顔を近づけてパシャリと一枚撮った。
わたしも持ってくればよかったけれど、そこまで頭が回らなかった。ちゃんと準備してきたら、みんなと、セイちゃんと写真が撮れたのに。
セイちゃんをちらりと見やると、隣のクラスの女の子と腕を組んで写真に写っていた。近くにいた紗耶香が「ふたりも一緒に写ろうよ!」と声をかけてきて、四人でも写真を収めたけれど、その間、わたしとセイちゃんは一度も目を合わさなかった。
担任は黒いスーツに身を包み、少し感慨深そうな顔をして教室を見渡す。そんな姿を見たからか、クラスメイトたちもいつもよりもしんみりとしていて、教室には不思議な静寂が広がっていた。
「最後だな」
先生の指示で廊下に並んでいると、隣の今坂くんがぽとりと雫のように呟いた。
「そうだね」窓の外を眺めながら返す。
もう、ここに来ることはないんだろう。
「今坂くん」窓に映り込む自分を見つめながら呼びかけた。
「ん?」ガラス越しに彼がわたしと視線を合わせる。
「わたし、好きな人がいるんだ」
すごく、好きな人が。