きみと、もう一度
中学生最後の日。だけど、終わることは始まることでもある。
順番に体育館に二列で入り、吹奏楽の演奏を浴びながら自分の座る席を目指して真ん中のレッドカーペットを歩いて行く。
座り心地の悪いパイプ椅子に腰を下ろして、全員が入場を終えるのを待った。
開式の言葉を聞いて、国歌斉唱。なにかよくわからない話を聞いてから卒業証書の授与。
自分の名前が呼ばれてから再び席に戻る間以外は、ただただ腰が痛い。その後にやたらと長い校長先生や来賓祝辞も苦痛で仕方なかった。
今でもそう思うのだから、五年前はもっと退屈だっただろう。
ただ、あの頃よりも、ほんの少しだけ意味を理解できる。『未来に向かってはばたけ』だとか『夢』や『挑戦』といった言葉が並んでいる。
ちゃんと耳を澄ませて聞いてみると、あの頃のわたしにちゃんと聞かせてあげたいと思った。
学校は、とても狭く、だけど青春がぎゅうっと圧縮された濃厚な世界だった。
だけど、たった三年だった。
卒業してからわたしは、その三年よりも長い時間を過ごしてきた。そして、その先には、中学三年間の倍以上の年月が待っている。
『新しい世界に向かって、胸を張って、笑顔で飛び立ってください』
校長先生は、満足気な顔でそう言って締めくくった。
五年越しで、遅すぎたかもしれない。けれど、やっと、ちゃんと卒業できるような気がする。