きみと、もう一度
式が終わると拍手を受けて教室に戻った。思っていた以上に涙で目を赤くしている女の子たちがたくさんいた。
そして、鼻の奥につんとした痛みを感じているわたしも、恐らく目をうるませているだろう。
今、一五歳で涙を流せるみんなは、わたしよりもよっぽど『卒業』を受け止めていたんだ。
教室に足を踏み入れる手前で、戸惑った表情の今坂くんと目が合った。
「卒業、おめでとう」
「……ああ、大塚も」
表情を緩めて彼に発すると、苦笑を見せて答えてくれた。今坂くんはわたしを校舎裏には呼び出さない。そして、わたしも逃げ出さない。
朝の喧騒は、式が終わるとより一層大きくなった。カメラのシャッター音はいろんな音が同時にいくつも聞こえてくる。
「ちな」
落ち着いた気持ちで教室を見渡していると、セイちゃんが神妙な顔つきでわたしを呼んだ。手には、デジカメ。
「一緒に写真撮らない?」
「い、いいの?」
「せっかくだし。今撮らないと、あたしきっと、ちゃんと笑えないから」
セイちゃんは、最後のホームルームが終わったら、今坂くんを呼び出すだろう。今、自分がちゃんと笑顔を作れるかは自信がないけれど、きっとセイちゃんも同じ気持ちだ。
「うん」
強引に口端を持ち上げると、セイちゃんは今にも泣きそうな顔で笑った。
「はーい、いっくよー!」
紗耶香がわたしとセイちゃんに呼びかける。カシャン、と音がなると、不自然に少しだけ距離を開けたわたしたちの写真が、デジカメの画面に映し出されていた。
「ありがとう、セイちゃん」
「ねえ、ちな」
画面を眺めたまま、セイちゃんは言う。
「遠慮なんかしないでね。こんなところで最後に気を使ったりしたら、あたし、ゆるさないんだからね」
曖昧な笑顔しか返せなかったけれど、幸いセイちゃんは画面から視線を上げなかったから、バレなかった。見られていたらきっと、怒っただろう。
しばらくすると担任が教室にやってきて、改めて全員の名前を告げながら卒業証書を手渡していった。そして、みんなに一言ずつ告げていく。
「頑張れよ」
そんな、たった一言が今のわたしの心にすうっと染み込んでいった。
それは、〝これから〟のわたしたちへの、言葉だ。