きみと、もう一度
駅前のコンビニ前で、一時間以上を過ごした。
この辺の中学校の卒業式は、みんな同じ日のはずだから、きっと終わったあとに遊びに行く、と予想を立ててずっとやってくるバスから降りてくる人物を見つめる。
けれどちっとも来る気配がない。何時まで待つべきだろうと思い始めたときに、彼の姿を見つけた。
「あれ、お前この前の」
バスから降りてきた学ラン姿の集団。その中のひとり、幸登は、わたしが見つけたのと同じタイミングで気づいて声をかけてくれた。ひらひらと手を振ると、一緒にいた友だちに「先に行ってて」と言いながらわたしに駆け寄ってきた。
「卒業おめでとう」
「お前もだろ。なんかこの前と違って明るい顔してんな。なにしてんの、こんなところで」
「お礼を、言いたくて」
会いたくて、の代わりに「この前はありがとう」と告げると、彼は先日のことをすっかり忘れているのか首を傾げたあとに「あー、おう」と言ってふんふんと頷いた。
「友だちと仲直りできたのか」
「ううん、できなかった」
「なんだそれ」
「でも、いいの。大丈夫なの」
意味がわからない、と顔に書いたような渋い顔をしながら「ふうん」と言う。
「五年後に、また頑張ってみる」
「は? なんで五年後?」
「秘密」
なんだそれ、とまた同じことを言ってから、彼は笑った。
「まあ、先はまだまだなげえしな。好きにすれば? じゃあまあ、行くわ。またな」
「うん〝またね〟」
友だちが遠くから彼の名前を呼んで、幸登は軽く手を上げて駆け出していった。小さくなっていく、幼い幸登の背中。