きみと、もう一度

 ◇


 体が鉛のように重かった。なんだか気持ち悪い。

「んー」と呻きながらごろりと寝返りを打つと、すぐ傍で「あ! 起きた!」と誰かが叫ぶ。

うるさいなあ、ともう一度唸りながら顔を動かして声の主を確認すると、目の前に姉の顔があった。


「おかーさーん! ちなが起きたよ!」
「う、うるさ……」

 姉のやたら甲高い声が鼓膜を刺激して頭が痛い。目を覚ましたからってなんで母を呼ぶ必要があるのかわからない。

しかめっ面をして文句を顔で伝えるけれど、姉は全く気づく様子がなく、しまいには母のどたどたと騒がしい足音が聞こえてきた。

「大丈夫なの、あんた」
「……なにが」

 細く目を開けて声に応える。ぼやけた視界に、ダークブラウンの髪の毛がさらりと揺れた。

「お姉ちゃん、髪の毛、染めたの?」
「はあ?」

 素っ頓狂な声に、意識が少しハッキリとしてきた。上下の瞼がくっついているんじゃないかと思うほど開かなかった目も徐々にひらけて、視界をクリアにしていく。

 ダークブラウンの髪の毛に、細すぎない自然な眉の姉がわたしを見つめていた。その奥には、白髪の増えた母がいる。

 なんだか急にふたりとも老けたなあ。

 体を起こそうとしたけれど、まだ重くうまく動かなかった。汗をかいたのか、ベトベトしているような気がする。

顔に貼り付いた髪の毛を手で拭うと、視界にネイビーブルーの爪が映り込んだ。

「あんた、急に熱出して寝込んだのよ。うんうん唸って、ずっと朦朧として。腹でも出して寝てたの?」

 もう、と言いながらわたしの額に手を当てる。「大丈夫そうね」と呟いてわたしにお腹が空いていないかを確認した。

取り敢えず、水分を要求して体をゆっくりと起こしていく。風邪を引いた、と言っていたけれど今のところそれはほぼ完治したような気がした。体と頭がだるいのは、恐らく寝過ぎのせいだろう。
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