きみと、もう一度


 ていうか、それよりも。

「お姉ちゃん、今、何歳?」
「寝ぼけてんの? それとも二四歳がおばさんとでも言いたいわけ?」

 二十四、ということは……わたしは二十歳、ということだ。髪の毛にそっと触れると、伸ばしていた髪の毛が確かにあった。ショートカットじゃない、わたしの髪の毛。

 ハッとしてスマホを探しだすと、姉が「これ?」と手渡してきた。

スマホがある、てことはやっぱり、わたし二〇歳に戻ってるんだ。いや、戻ってきたというか、夢だったってこと?

 スマホのホームボタンを何度か押したけれど、画面は真っ黒のままでうんともすんとも言わない。いつのまにか電池がなくなってしまったらしい。

「わたし、どのくらい寝込んでたの?」
「二日、もうこのまま目が覚めないんじゃないかと思ったよー」

 そんなに寝ていたなんて全く記憶がない。それほどの高熱を出していたのか。一体いつ、どこで風邪をもらってきたのだろう。

 しかもあんな夢を見るなんて。やたら現実味のある夢だった。

しかも不思議なことに、七日間の夢を鮮明に覚えている。セイちゃんとの会話や笑顔に泣き顔、今坂くんへの淡い恋心も、一五歳の幸登も。

 二十歳に戻っているのだから夢であることには違いないはずなのに、自分の流した涙も決意も、感覚として今も残っている。

「そういえばずっとセイちゃんの名前をうわ言で言ってたよー。懐かしいね、どーしてんのかなあ」
「四月から働くらしいわよ」

 飲み物とおかゆを持って会話に混ざってきたのは母だった。

「就職が決まったって、この前駅でセイちゃんに会ったのよ。千夏は元気ですか?って聞かれたわよ。あんた連絡して上げなさいよ」

 そうか、セイちゃんは短大に行ったのか。しかも来月から社会人。遊ぶ時間もなくなるだろう。けれど、なんとなくしゃきしゃきと働くセイちゃんの姿がイメージ出来た。二十歳の、セイちゃんの姿で。

 変な夢を見たからだろうか。

 この前まで会いたくない、と思っていたはずなのに、今は会いたくて仕方がない。二十歳の、おとなになったセイちゃんを見たい、どんなふうにこの五年を過ごしたのか、話がしたい。
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