きみと、もう一度
がばっと体を起こして、バタバタと一階に降りていった。
テーブルには晩ご飯が並べられていて、時計を見ると七時を過ぎている。横になっていただけだと思ったら、すっかり寝てしまったらしい。姉はリビングのこたつに入ってドラマを見ていた。
「ちな、起きたの? 受験終わったからってあんな時間に寝て」
「おねーちゃん、あのドラマ何時からだっけ?」
母の小言を無視して姉の入っているこたつに入り込む。
「なによ、あのドラマって」と面倒くさそうに顔をしかめられたけれど、「九時でしょ」とそっけなく教えてくれた。
直後に父が帰って来て、みんなでテーブルを囲む。温かい鴨鍋はわたしの体をぽかぽかに温めてくれた。
食べ終わるとすぐにお風呂に入って、髪の毛を乾かしドラマを見逃さないようにこたつに入ってスタンバイする。
それを見た姉と母が「ほんっと、好きねそのドラマ」と呆れていたから、当時のわたしも同じようなことをしていたのだろう。
ドラマは結局、彼が事故に遭った。
主人公が付き合っていた彼だ。一度別れてよりを戻し、さあ、これから、というときに交通事故に遭う。当て馬だと思った男性の献身的な支えがあり、ラストはふたりの結婚式が行われていた。
わたしは、昔これを見て泣いた。泣いてこんな最終回は嫌だとがっかりした記憶もある。セイちゃんはたしか当て馬の男の人のほうが好きだったからよかった、と言っていた。
やっぱり、わたしは間違いなく、二十歳まで過ごしていた。その証拠に、次に始まるドラマも、最終回までほとんどストーリーを思い出すことが出来る。
ふらりと立ち上がり、自分の部屋に向かった。背後で姉が「落ち込んでるのー?」とからかってきたけれど返事はできなかった。
信じられない。けれど、信じるしかない。受け入れるしかない。
二十歳のわたしは、なぜか、五年前に戻っているんだ。
じゃあ、どうしてこの瞬間なのだろう。高校時代でもなく、中学三年になったばかりの春でもなく、卒業式を一週間後に控えた、今日に戻った意味はなんだろう。
その答えはとても簡単だ。
わたしがずっと、忘れることができなかった一週間だからだ。
この先の自分の選択が、間違っていたんじゃないかと、何度も考えたからだ。それはつまり、『未来を変えることができるかもしれない』ということなんじゃないだろうか。
部屋のドアを閉めて、ずるずるとその場に座り込んだ。床から冷たくて硬い感触が伝わってくる。