きみと、もう一度


 目覚まし時計は七時にセットしておいた。

 スマホのアラームなしで起きられるだろうかと不安だったけれど、寝る時間も早かったからか目覚めはいい。

夕方寝ていたくせに、考え事をしているうちに一二時頃には夢のなかにいたこともあるだろう。


 夢には幸登が出てきた。

 紫煙をくゆらすその姿から、彼の顔は見えなかった。呼びかけても振り返らなかった。代わりに、背後から今坂くんとセイちゃんがわたしを呼んだ。ふたりは、微笑んでいた。


 目は覚めたけれど、温もりの残っている布団からは出たくない。ぐるぐる布団に巻き付いて往生際悪くすがりついた。そうこうしているうちに母が今日も「千夏!」と声を上げる。

「はい!」と元気よく返事をして、見えているわけはないのに勢いよく立ち上がった。一度全身を布団から出してしまえば、もう諦めが付く。ドテラを羽織って冷たい床に出来るだけ触れないようにつま先立ちでリビングに向かった。


 髪の毛は、まだ短い。


 姉はまだ寝ているらしく、テーブルの前にも洗面所にもいなかった。冷たい水で顔を洗って、鏡の中幼い自分に、よし、と小さく声をかける。

既にテーブルに並んでいた朝ごはんを口に運ぶ。

実家を出てから、朝に白ごはんを食べるのは久々だ。味噌汁と、鮭の塩焼きとお漬物。最近はトーストすら焼かず、ヨーグルトやコーンフレークで済ませることも多かった。朝からこんなに食べられるだろうか、と箸を持ったけれど思ったよりも食は進む。

それどころか目も覚めてくるのがわかる。

 隣に座っていた父は、今日も新聞を見ながら無言で朝食を食べていた。

「ごちそうさま」と言って再び洗面所に戻り、髪の毛をセットして自分の部屋に戻る。右側の耳元がぴょこんとはねたまま戻らないのは諦めてピンで止めておこう。

 制服を着てなんとなしに手をポケットに突っ込むと、昨日今坂くんにもらったカイロが出てきた。冷たくなって、少し硬くなった古いカイロ。ぎゅうっと握りしめて自分の気持を再度確認する。
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