きみと、もう一度
温かくなる胸の中。落ち着かない心拍数。緩んでしまう頬。
わたしは、ずっと、今坂くんのことを忘れられなかった。行き場を失った恋心を、わたしは五年間、胸の奥に蓋をして鍵をかけて隠していただけだった。でなければ、今、こんな気持になるはずがない。
だから。
机の上の一本のヘアピンを取り出して身につけてから、小さく「ごめんね」とセイちゃんに向けて呟いた。
ごめんね、でも、一度目のようなことには、絶対にならないようにする。もう、間違わない。正しい道を探しだしてみせるから。
これからも、ずっと友だちでいるために。
わたしが五年前、一番最初に失敗した、と思っていることは〝セイちゃんにわたしも今坂くんが好きだ、と伝えられなかった〟ことだ。
いつから彼のことを好きだったかと言われると、未だにわからない。
始めはセイちゃんの好きな人だと思っていたから、まさか自分も好きになるとは思っていなかったし、認めたくなかったからかもしれない。
はっきりと、今坂くんが好きだ、と思い知らされたのは五年前の、今日だった。
今日、恐らく紗耶香は決心をする。それによってセイちゃんも決心をしてわたしに報告をする。
――『あたし、今坂のこと、好きなんだよね』
恥ずかしそうに顔を赤らめて、ちょっとうつむきながらセイちゃんはわたしにだけ告げてくれた。そのとき、わたしは『知ってたよ』とからかいながら『頑張ってね』と応援した。自分の気持ちをそっと奥に押しやって、笑ってみせた。
知っていたから大丈夫だと、思っていた。わたしの気持ちはセイちゃんには敵わないから、黙っているべきだと思った。けれど、それが間違っていたんだ。
恋心はそんなことできれいさっぱりなくなるわけではなかったし、卒業までの数日、今坂くんと言葉をかわす度に余計に意識して膨れ上がってしまった。
隠そうと必死になればなるほど、我慢できないくらいにわたしを侵食した。