きみと、もう一度

 ぼんやりを話を聞いて、問題を解いていく。わからないところは改めて説明をしてくれて、わたしは与えられたプリントを全て埋めた。

結構忘れてしまっているのだなあと自分の答案用紙を見て思う。


「今日はこのくらいで帰るかー」とあからさまにやる気のない返事をもらって、わたしも「はあい」と片付けを始めた。

先生たちにとっては明日本番の生徒のほうが大事だろうし、わたしもやる気ががない。家を出て二時間もしないうちに電車に乗って駅まで戻ってきた。

 駅前のバスロータリーの真ん中に時計が掲げられている。まだ八時。あまり早く帰ったらサボったと思われそうだなと、逆の改札口に向かって歩き、コンビニに立ち寄った。

 お小遣いは残っているのだろうか、とカバンの中から財布を探る。よくわからないブランドの二つ折り財布を取り出して、中身を確認すると千円札が一枚と、小銭が五〇〇円程。

中学でのお小遣いがいくらだったのか覚えていないし、いつもらえるかも記憶にないけれど、まあなんとかなるだろう、と飲み物コーナーで温かいカフェオレの缶を掴んだ。


「ユキト! バスもうすぐ来るって!」


 飛び上がるような衝撃に、ガン、と音を出して落ちたカフェオレのパックが足許に転がる。

「おー」と声をかけられたのだろう相手が、わたしの真隣から返答する。恐る恐る振り返るとわたしよりも少し高いくらいの男の子がコーラを手にして立っていた。


 幸登だ。中学生の、幸登だ。


 まだ大分幼い顔立ちだけれど、釣り上がり気味の二重は変わっていないし、さらさらの黒髪も、わたしの知っている幸登だ。


「……なに?」
「っえ、いや、なにも」

 ぱちんと目があって、彼は怪訝な顔を見せた。慌てて首を左右に振ると「ああ」とかに気づいた様子で缶を拾い上げてわたしに差し出した。それを受け取ると、幸登はレジに並びに行く。

「知り合い?」と傍にいた男の子が幸登に聞くと「しらね」とそっけなく答えていた。
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