きみと、もう一度


 幸登とわたしは、実家が近かった。校区が違ったから同じ学校に通ったことはないけれど、確かに互いの最寄り駅はこの駅だった。それがきっかけて親しくなったのだから。

 けれど、まさかこんな近くにいたなんて。

 知らないだけで、覚えていないだけで、何度かすれ違っていたかもしれないなんて。


 心臓がバクバクと破裂してしまうんじゃないかと思うほど暴れている。全身の毛が逆立っているのが分かる。息苦しい、胸がぎゅうぎゅうとだれかに握りつぶされているみたいに痛い。

 今坂くんと再会した時の痛みとは比べ物にならない。

 どうして、こんなに動揺して、わたしの神経をすべて引き寄せてしまうんだろう。

見えないのに、幸登のいるだろう方向に全神経が集中する。カフェオレを持つ手が小刻みに震える。


 ゆっくりと空気を吸い込んで、細く長い息を吐き出した。


 落ち着け、落ち着け、幸登だって一五歳でここにいるのは当然のことだ。たまたま出会ってしまっただけ、それだけのこと。

 まだ震える手でレジを済ませてコンビニを出ると、バスのりばに並んでいる集団の中に幸登がいた。

ゲラゲラと迷惑なほどはしゃいでいる男の子のグループ。そういえば幸登は、やたらと男の子の友だちが多かった。本人も女の子と呑むよりも男同士のほうが気楽だと言っていたっけ。

 バスが排気ガスを連れてやってくると、後ろのドアから集団は乗り込んでいった。しばらくしてプシューッと空気の抜けるような音と共にドアが閉じられて、ゆっくりと動き出す。


 この先、幸登はどんなふうに日々を重ねていくのだろう。

 もしもわたしがいなくなった未来だとしても、きっと幸登は変わらない。幸登らしく、好きなことを好きなようにしながら、楽しく過ごしていくんだろうな、と思う。


 幸登の新しい未来は、わたしと一緒にいるよりも幸せなものになるだろうか。
 そうであればいいと、思う。

 バイバイ、幸登。
 夜空を見上げながら呟いたからだろうか、涙が溢れることはなかった。
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