きみと、もう一度
強引に連れ込まれた姉の部屋にはマニキュアのニオイが充満していて、一瞬頭がくらりと揺れた。
一体いつから電話を盗み聞きしていたのだろう。
「あの言い方は好きな男の子でしょ! おしゃれしなさい!」とクローゼットからいろんな服をベッドに放り投げていく。
ありがたい申し出ではあるけれど、その様子は心配しているというより、面白いおもちゃを見つめたかのようだった。
ただ、真剣であることは間違いなさそうなので黙って着せ替え人形になってみせた。
さすがに姉好みの派手で大人っぽすぎる服装には文句を告げたけれど。
わたしの好みであっても、今は十五歳のまだ幼いわたしだ。似合わないものもある。
姉の選んだコーディネートに文句を告げると、姉もチクチク嫌味を言い返して来たけれど、一時間ほどでなんとか服装が決まった。
薄いピンクのコートに、細身のダメージデニム。上は黒いロンTの上にざっくりと編まれたグレーのニットだ。おまけにカバンとベルトといった小物から上部が赤いチェックになっているエンジニアブーツまで貸してくれた。
今日は相当機嫌がいいらしい。普段ならわたしが触れるだけでも怒るというのに。
姿見に映った自分の姿は、幼いなりにかわいらしくなった気がした。
「なににやけてるのあんた」
姉がばかにするように笑って、わたしをからかう。最後に「妹思いの姉よね」と満足気にふんぞり返った。
「ありがと」
「帰ってきたら報告しなさいよ、貸したんだから。あと汚さないでよね」
あとで交換条件を提示するなんて悪徳業者のようだ、と思いながらも今は「はあい」と返事をしておくことにする。
服を脱ぎ、きれいに畳んで部屋に持ち帰った。借りてしまえばこっちのものだ。