きみと、もう一度
幸登の夢を見た。
ベランダで、暗闇をバックに紫煙を味わう姿だった。
彼の背中からひどく強い風がわたし目掛けて吹き付けてきて、わたしは立っているのがやっとの状態だった。目がうまく開かなくて、薄目でかろうじて存在を認識することしかできない。
幸登から吐き出される白い煙が彼の周りを包み込んで、次第に全て見えなくなった。
「……寒い」
目が覚めると同時に口からこぼれ落ちた。
布団の中は温かいけれど、顔が冷たい。微かにひゅうひゅうと風の音が聞こえてくる。
昨日窓を少し開けたまま眠ってしまったのかもしれない。「うー」と唸りながら猫のように丸まって瞼をぎゅうっと閉じた。
「千夏ー? あんた、待ち合わせ大丈夫なの?」
姉の声がわたしのかまくらの中に届く。
待ち合わせ、そう、今日は今坂くんと出かける日だ。大丈夫って、なにが?
「えっ?」
布団をめくり上げるように飛び起きて、目覚まし時計を確認する。
見えた時間が信じられなくて奪い取るように目の前に持ってきてまじまじと見つめるけれど、もちろん変化はない。
十一時十分を回ったところ。
「ウソ! え! なんで!」
「十時過ぎにすっごい鳴ってたけどー」
「なんで起こしてくれないの!」
「知らないわよそんなこと。自業自得でしょ」
昨日あんなに張り切ってくれたくせに、姉はツンとすました顔で「しーらない」と踵を返した。
今起こしてくれただけも感謝すべきなのはわかっているけれど、せめてもう少し早く声をかけて欲しかった。っていうかなんでわたしは目覚ましの音で起きなかったのだろう。
バタバタと階段を駆け下りると、母に「なに騒いでるの!」と怒られてしまったけれど、無理をする。今は小言に付き合っている時間がない。