きみと、もう一度

 レジが混んでいるらしく、今坂くんはまだ並んでいる。

待っている間、色とりどりに並べられたヘアピンの中から、なんとなくひとつを手にした。シンプルなピンクのヘアピンだけれど、角度を変えると光がキラキラと反射して、色んな色に変化する。

「どうしたの?」
「あ、セイちゃんに似合いそうだなって」

 会計を終わらせたのか、隣に今坂くんが立っていてわたしの手元を覗き込んでいる。考えるよりも先に口にして、そんなつもりでこれを選んだのか、とちょっと自分で驚いた。

でも、これはセイちゃんにとてもよく似合うだろう。

「明るいもんなあ。宮下はヘアピンってイメージ」
「あはは、毎日つけてるもんね。いろんなの持ってるんだよ。わたしもお揃いで幾つか持ってるし」
「ほんと、ふたり仲がいいよなあ」
「うん」

 そう言われたことが嬉しくて、つい饒舌になってセイちゃんのことばかりを話し始めてしまった。

 小学校から一緒で、毎日わたしを迎えに来てくれること。

男子にいたずらされたとき、セイちゃんは泣きながら男子に怒ったこと。

セイちゃんはピンクが好きで、部屋の中にもたくさんのピンクで溢れていること。

セイちゃんの家にいるフレンチブルドックは人見知りが激しく、昔は全く懐いてくれなかったけれど、今ではわたしの膝の上でも眠ってくれること。

 今坂くんは「そうなんだ」「へえ」と相槌を打ってくれる。

 思い出し始めると、セイちゃんとの話は尽きることがない。次から次へとエピソードが浮かんできて、口が止まらない。いろんな店を見るたびに、些細な事でもセイちゃんのことを思い出してしまう。

 この色はセイちゃんが好きな色。
 この服はセイちゃんに似合う。

 こんなにセイちゃんのことを知っていたんだ、覚えているんだ、と嬉しくなった。五年間、一度も連絡を取らず、一度も見かけなかった。

それでも、ずっとわたしの中にはセイちゃんがいた。だけど、それは今までのセイちゃんで、一五歳から先の姿も、好みも、趣味も、わたしは知らない。

 けれど、この先には、わたしの知らないセイちゃんが待っているに違いない。高校生、大学生になったセイちゃんと、わたしはどんな付き合いをしていくのだろう。

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