きみと、もう一度

 そういえば、一昨日、今坂くんがセイちゃんに声をかけていた。どこかに行って話をしていた。そして、セイちゃんはその日の帰りに言った。

 ――『きっと明日はいいことあるよ!』

 そして、昨日わたしは今坂くんから今日のデートに誘われた。

もしかして、セイちゃんは、全部知っていたってこと? それどころか、本当は自分が誘われたのに、断ったってこと? 用事なんてあったはずがない。ありえない。

 どうして、ここまでするの?

 本当は、今坂くんと出かけたかったはずだ。どうして、どうして。


「オレさ」
「あ、りがとう!」

 ぎゅうっともらったプレゼントを握りしめて声を張り上げた。今坂くんの声をかき消すように、耳を閉じる代わりに。

「ありがと、なんか、気を使わせちゃって、ごめんね」
「あ、ああ……」

 拍子抜けしたような彼の表情には気がついたけれど、気が付かないふりをしてヘラヘラと笑った。

これ以上会話が逸れないように、目についたもの全てを口に出して、思いつくしょうもないこと――姉の話とか、今日寝坊したこと、このまえのドラマの最終回の感想――を話しつづけた。




 家に着いたのは、空が暗くなり始めた頃。

 店も見尽くしてすることを失ったあと、家でご飯があると告げてわたしたちは帰路についた。

ファーストフードかどこかで、と彼は言いかけたのに気づいたけれど、これ以上ふたりきりで話を続けることは出来ない。これ以上、ごまかせなくなってしまう。

 暖かい建物の中にずっといたから、日が沈みかけた外との温度差に、顔が痛んだ。

そのせいなのかはわからないけれど、帰りの電車では、お互い口数は少かった。


 バス停から降りると、手のひらに収まってしまうほど小さな子猫と、親猫らしき二匹がぱたぱたぱた、と目の前を横切った。

虎柄の猫。足を止めてちっちっち、と呼び寄せてみたけれど、人の家の車の下に忍び込んで、ぎらりと目を光らせたまま微動だにしなかった。

子猫に関してはまだ好奇心が強いらしく、来る前に入ろうと体を床に伏せながらもわたしに丸見えの位置で見つめてくる。スマホを持っていれば写真に納めただろう。


 そういえば、昔は犬好きだったのに、いつから猫派になったんだろう、わたし。
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