きみと、もう一度

 コートの一番上までボタンを閉めて、その上からマフラーをぐるぐる巻いたら、鼻から下はすっぽりと隠れてしまった。地面を思い切り蹴りあげて、風を真正面から受け止めていく。

 泣いているのが誰にも見つからないように。

 涙を風が拭きとってくれたらいい。こぼれたものはマフラーが隠してくれる。


 わたしは、どこで間違えたんだろう。

なんとかしようと思ったことが、セイちゃんを追い詰めるなんて思ってもなかったんだ。

だってそんな過去は知らない。セイちゃんがどんな気持ちでわたしに隠し続けたのかを、わたしはわからない。

 わたしは、五年前よりももっと、セイちゃんを傷つけたかもしれない。

わたしがただ、満足するためだけに、勝手に過去でセイちゃんの気持ちを決めつけて、セイちゃんのことを本当はなにも考えてなかったのかもしれない。

 どこで間違ったの? どうすればよかったの? なにが、正しかったの?
 なんのためにわたしは、五年前に戻ってきたの?


 闇雲に自転車を走らせる。どこでもいいからどこかに行きたい。そんな一心でペダルと無心で漕ぎ続けた。

 自分の家はとっくに通りすぎて、小さなスーパーの前を通り過ぎる。突き当りまで出ると、ファミレスが立ち並ぶ道路に出て、駅の方角に進んでいった。

私立の学校があり、くねくねと細かい曲がり角を重力に任せて下っていく。駅が見えてきたけれど、それも通りすぎて駅の反対側に向かった。

 父がよく行く銭湯がある。今日も行っているかもしれない。

 大きなショッピングモールの駐車場には車が溢れかえっていた。

 閑静な高級住宅街に差し掛かると、どこの家も庭にイルミネーションが仕掛けられている。

夜になったらどこもかしこがきれいに輝くのだろう。通り過ぎたバス停には、真弓二丁目、と書かれてあって、どこかで見たことがあるなと思ったら、幸登の実家のあたりだった。

 幸登の家に行ったのは、二、三回程度だ。家には二匹の、懐っこい猫がいた。黒猫と、黒靴下を履いた白猫。
< 77 / 122 >

この作品をシェア

pagetop