きみと、もう一度
「なにしてんの、お前」
風の音を吹き飛ばすような、ぶっきらぼうな声に体がびくんと跳ねて、その衝動で顔をあげてしまった。
いつの間にいたのだろう。彼はわたしの目の前にいて、ポケットに手を突っ込んで見下ろしている。目が合うとわたしの顔を見て少し目を見開いた。でも、多分わたしも彼と同じ顔をしていただろう。
幸登、だ。
この前、駅で会った幸登だった。色落ちしたデニムをハードブーツにインしている。紺色のダッフルコートに、斜めがけのショルダーバックを背負っていた。
「なんか死にかけてるかと思ったら泣いてたのか」
「え? あ、いや……!」
自分の顔があふれる涙でぐちゃぐちゃになっていたことを思い出して慌てて拭う。セイちゃんの家に行くだけだったからハンカチなんか持っていなかった。
「使う?」
「……あ、ありがとう」
すっと差し出されたのは、ぐちゃぐちゃのライトグリーンのラインが入ったシンプルなハンカチ。受け取ったものの、これいつからポケットに入れてあったものだろうかと疑問が浮かんで思わず「ふは」と笑ってしまった。
「なんだお前、泣いたり笑ったり、情緒不安定すぎるだろ」
そういいながら、なぜか隣に座った彼は「さみい」と言ってポケットから缶コーヒーを取り出した。コーヒーが大好きな人だとは知っていたけれど、一五歳から飲んでいたのは知らなかった。
「はい」
「へ?」
まるで魔法のポケットみたいに、もう片方の手からも缶コーヒーが出てくる。
「俺のカイロ」
いや、缶コーヒーを買うよりもカイロのほうが安いし、なんで二本も持っているのだろう。
もしかして、ポケットに手を入れて痛いから、両方温めるために二本買ってあったんだろうか。
ほんと……なんて人だろう。子供っぽくて、適当で、だけど、うずくまっているわたしに声をかけてくれる。
そういえば幸登はわたしの体の不調に、いつも一番に気づいてくれた。ただ、決して「大丈夫か?」と言わずに「桃カン食いたくない?」と言ってコンビニに行くだけだ。
それがわたしのためだと気づくのに、時間がかかった。
わかりにくいけれど、優しいところはあったよね、昔から。今の彼も、ぶっきらぼうだし優しい言葉はないけれど、暖かい。
あったかいなあ。
両手で缶コーヒーを包み込んでいると、じわりとよくわからない涙溢れだした。さっきまでの苦しい涙じゃなくて、ただ、勝手に。悲しいのとは、ちょっと違う。