きみと、もう一度
幸登はそんなことまで考えないだろう。
勢いに任せたり、言いたいから言う、て感じがする。駆け引きの出来ない人だから、断られた時に諦めるんだろう。あー無理だったかあ、って笑いそうだ。
付き合うきっかけはわたしからの告白だったけれど、もし言わなかったらどうなっていたんだろう。
――『わたし、幸登のこと、好きだよ』
――『あ、そうなの? じゃあ付き合うか』
仲がよかったし、嫌われてはいないだろうな、と思ったけれど、わたしはあのとき、うまくいく確信はなかった。拍子抜けするほどあっさりと付き合うことになった気がする。しばらく意味がわからなくて「え?」を繰り返していたかもしれない。
なんで、告白なんてできたんだろう、わたし。
チャイムが鳴って慌てて廊下を走りだすと、雨で濡れた廊下と上靴のゴムが、摩擦できゅっきゅと耳障りな音を響かせた。
中学生は残すところ、あと一日。今日は卒業式の予行練習をして午前中で終わる。
準備があるからしばらく教室で待機するように、と担任に言われた後、自由時間のように騒がしい教室の中で、紗耶香がひときわ高く声を上げた。
「ちな! ちょ……! 聞いて聞いて!」
わたしの腕を引っ張って、教室の隅っこに連れて行く。そばにいる真美も顔をほころばせている。なんだっけ、と考えたところで関谷くんのことを思い出した。そうか、返事は今日の朝だったっけ。
「関谷が……付き合ってくれるって……!」
「よかったねえ、紗耶香ー!」
興奮を必死に抑えながら小声で言った。顔を真赤にして、嬉しすぎて今すぐ死んでもいい!と顔に書いてある。紗耶香だけではなく、真美もとてもうれしそうにふたりで手を取り合いぴょこぴょこと飛び跳ねていた。
「どうしたの、ちな」
「え?」
「なんか、元気ないけど、あんまり、驚いてないし」
気遣わしげな紗耶香を見て、息を呑んだ。
そうだ、わたしは知らないはずなんだから、驚かなくちゃいけなかった。知っていたからつい、ふたりを眺めてしまっていた。
「お、驚きすぎて! ほんと、びっくりした。お、おめで、とう」
「ありがとー!」
おめでとう、と言っていいのかはわからなかった。わたしの態度がまずかったせいで、ふたりのテンションが少し下がるのを感じる。