きみと、もう一度
五年前のわたしは、この日の紗耶香に心から、自分のことのように喜んだ。
本当によかったね、よかったね、と何度も口にして、なぜか一緒になって泣きそうになったことも記憶にある。紗耶香はわたしに何度も「ありがとう」「嬉しい」と瞳に涙を溜めて微笑んでいた。
でも、今のわたしはこの後にどうなるのかを知ってしまって、純粋に応援できないでいる。おめでとう、の言葉さえたじろぐほどに。
本音を言えば、紗耶香と関谷くんは付き合ってほしくない。だって傷つくのは紗耶香だ。あんな姿はもう見たくない。
けれど、そのせいで、わたしは今の紗耶香のほほ笑みを失ってしまった。
止めることができないのならば、未来なんて知らず、おもうさまに祝福したほうが、よかったんじゃないだろうか。そうすれば、紗耶香は今日をとびきりの記念日に、一瞬でもできたかもしれないのに。
紗耶香は知らないから、今の幸せを体全身で感じることができるんだ。
「おめでとう、嬉しい」
そっと紗耶香の手を握り、告げた。
紗耶香は一瞬驚いた顔をして、天真爛漫な表情で笑った。
しばらくして担任が戻ってきて、ぞろぞろとみんなが廊下に出て列を作った。誘導されるがままに前に進んでいく。
校舎を出て、となりの体育館に順番に入っていき、前の方に男女が左右に別れて並んだ。当日は椅子が並んでいるけれど、今日は練習だから立ちっぱなしだ。
三年生全員が自分の場所に着くと、学年主任が壇上に上がって簡単に説明を始めた。
ここで校長先生の挨拶があるだとか、来賓の紹介があるだとか。今日の練習のメインは、名前を呼ばれて立ち上がり、どこにはけていくか、の段取りと卒業証書の受け取り方らしい。ただ、全員する時間はないということで二クラスくらいが実践して終わった。
近くの女の子が、練習で感極まったのか涙を流していた。当日になるとこの子はどれだけ号泣することになるんだろう、と冷めた見方をしてしまうのは、わたしがおとなになったからなのかな。
記憶の中のわたしは、卒業式にどんな気持ちを抱いていたのだろう。
真っ白な未来に、なにを思い描いたのだろう。