きみと、もう一度
教室に戻ると、いつの間に来ていたのかセイちゃんの姿を見つけた。
「セイちゃん」
恐る恐る、まるで忍び足のようにゆっくりと近づいて声をかける。自分の席に手をついた状態で、セイちゃんは振り返った。なんの感情も感じられない、人形のような無表情を、わたしに向ける。
気圧されたように息を吸い込んで、その場に立ち尽くした。
「ちな、今日はごめんね!」
目を細めてそう言ったけれど、目元はちっとも笑っていなかった。わたしを見ているようでその目線は少しずれているのを、感じた。
「セ、セイちゃん……」
「ん? なに? あ、紗耶香ー!」
わかっているのにわかっていないふり。わたしの困惑に気づいているはずなのに、作り物の笑顔を貼りつけて、わたしの横をすり抜けていった。
謝ることすら、拒否された。それは、なかったことにされてしまったということだ。
それはまるで、今までの全てを、消されてしまったみたいな喪失感があった。
「大塚」
放心状態のわたしに、今坂くんが背後から近づいてきた。
「あの、今日、なんか帰り用事ある?」
鼻の下を照れくさそうに手で隠しながら、そう言ってわたしの反応を探るようにちらっと上目遣いで視線を送ってきた。
「ご、ごめん、今日は……」頭で考えるよりも先に、嘘を口走る。
「どうしたの?」わざとらしいわたしの問いかけに彼は「なんでもない、いいんだ」と少しバツが悪そうに引きつった笑顔ですぐに踵を返した。
その今坂くんの後ろから、教室の角にいたセイちゃんと目があった。
ひどく、冷たい目だった。