きみと、もう一度

 セイちゃんは用事があるのだと、ひとりで急いで帰っていった。途中まで一緒に歩いていた紗耶香も真美も、わたしとセイちゃんのいつもと違う様子に少なからず気づいている様子だったけれど、なにも言わなかった。

 傘の中に閉じこもるように口数少ないまま、家に帰る気にもなれずひとりで駅までの道のりを歩く。

 途中足許が悪い場所があるのも気にしないで、寧ろ汚れてしまえばいいくらいの気持ちで脚を踏み出していく。

 水たまりに何度もハマってしまったせいで、スニーカーの中は雨水でいっぱいになった。歩く度にぐちゃぐちゃと水を踏み潰す不快な音が鳴る。

明日は卒業式なのに、制服を汚してしまって母にきっと怒られるだろう。

本当は雨に打たれてしまいたかったけれど、さすがにそれは理性が勝った。


 徐々に激しくなって、わたしの視界は刺すような雨粒で白くぼんやりと霞んでいた。どんなに雨を防いでも、傘を避けるように落ちてくる雫が、わたしの体を冷やしていく。

 駅についた時にはもう、スカートの半分くらいが水分によって色を変えていた。

 駅前の建物の中に入り、二階にあるちょっとしたスペースに腰を下ろした。樹脂製の椅子は、濡れたスカートで座ると余計に冷たく感じる。

 こんなところに来て、わたしはなにをしているんだろう。
 風邪を引いたりでもしたら最悪だってことはわかっているのに。


「ここで待ってるわ」
「うん、ありがとー」

 低い男の人の声と、かわいらしい女性の声がして顔を上げる。

ガラケーを手にした男性が、壁にもたれかかり、女性はパタパタと薄い水色の傘から雫を振りまきながらトイレに駆け込んでいった。しばらくしてすぐに女性が出てきて、ふたりは手を絡ませてエスカレーターの方に向かっていく。

 ふたりは、わたしと同じくらいだった。

わたしの、本当の年齢と同じくらいの、大学生。口調はもちろん仕草も、お互いを見つめる眼差しからも、ふたりが恋人同士だということはわかる。

 わたしと幸登も、一緒に歩いていれば、彼らのような恋人に見られていたのだろうか。

 手を繋いで歩いていたのは、付き合って数ヶ月の間くらいだったけれど。最近ではめったに出かけることはしなくなったけれど。それでも、途中で少し文句を言い合うくらいで大きな喧嘩をすることなくデートを楽しんでいたと思う。

 一緒に映画を見に行き、雑貨屋に寄って、適当に探し出した店や、汚くて古いけれど最高に美味しいお店で晩ごはんを食べて過ごしていた。

 今坂くんのように、事前に調べたり予約してくれることはない。
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