きみと、もう一度
雨の寒さを残したまま、快晴を迎えた卒業式。
ちゃんと眠れたのかどうかは、頭が重すぎてよくわからなかった。ずーっと夢を見ていたような、熟睡してなかったんじゃないだろうかと思うような、気だるさが残る。
もしかすると、昨日雨に打たれたせいで少し風邪気味なのかもしれない。
「ちな! 起きてんの?」
勢いよくドアが開けられて、その衝動でドアが壁にガン、とぶつかった。朝からけたたましい音が響って頭まで痛くなってきた。
「起きてるよ」
「じゃあさっさと準備しなさい! 卒業式でしょう! 制服もちゃんとしておいたから!」
まくし立てるように叫ぶ母に「ん」と短い返事をして腰を上げる。
母も卒業式に出るから準備がいろいろあって忙しいのだろう。服装はでろでろになったパジャマだったけれど、顔だけはきっちりと化粧が乗っていて、逆に少し気持ち悪い。
そんなこと言えば不機嫌になるのは目に見えているので余計なことは黙っておいた。
リビングのテーブルには、スーツ姿の父もいる。
「おはよう、お父さんもくるの?」
「当たり前だろ。終わったら出勤するけどな」
大人は大変だなあ、と思いながら椅子に座っていつもよりも手抜きの朝ごはんを食べる。急いでいたからか、目玉焼きにケチャップはかけられていなかった。
「お母さん、塩コショウどこ?」
「なにするのあんた。キッチンにあるから探して」
目玉焼きに、と独り言のように答えながら、コンロの脇にある調味料のかごから探しだした。マンションにあったものよりも、高級なあらびき塩コショウだった。