きみと、もう一度
「ちな、デジカメしらない? ちょっとお父さん、ひげ剃ったの? 残ってるわよ!」
どたどたと母だけが忙しそうに家中を走り回っている。そのうるささに「もー目が覚めたじゃん」と姉が髪の毛をからませたまま降りてきた。
「ちな、卒業式か、おめでとー。そういえば例のデートはどうなったのよ」
塩コショウで味付けされた玉子焼きの黄身をぷちっと潰して「ふつー」と答えにならない返事をした。当然姉はそんな返事で満足するはずもなく、「はあー?」と眉間に皺を寄せる。
「お姉ちゃん、目玉焼きってなに派?」
「なによもう、ケチャップが普通じゃないの?」
「だよねえ」
わたしと会話にならないと思ったのか、姉は首を傾げ怪訝な顔をして「もっかい寝る」と階段を上がっていった。
そんな姉は五年後に醤油派になってる、ということはわたしだけが知っている。それは、付き合っている彼氏の好みだということも。
わたしたちは、似たもの姉妹だ。
自分がどうしたいのか、その答えをわたしはまだ選ぶことができないでいる。
どうにかしたいのに、どうにかしたその先を思い描けない。
朝食を済ませて、いつもよりも髪の毛を丁寧にブローした。
部屋に戻って制服を見ると、確かに昨日濡れたものだとは思えないほどきれいに整えられている。どれだけ苦労しただろうかと想像すると、帰った時にあれほど怒られたのも仕方ない。
いつもよりもノリの効いたカッターシャツは、硬すぎて首元が痛く感じた。
けれど今日で最後の制服だ。いつもは適当に結ぶリボンも、首元まできっちりと締めて左右均等の形になるように整えた。
そして最後に、前髪をヘアピンでとめる。