キミのトナリ
「坂口さん」
懐かしいなぁなんて
思っていると
受付に名前を呼ばれて
私は立ち上がる
私は「失礼しまぁす」
と言いながら
診察室に入ると
先生が振り向いて
いつものように
「どうだ?
調子は」と聞く
こうやって病室には
未だに定期的に通って
昔からの担当だった
小倉先生に報告に来る
「特に変化はないよ」
私の答えはいつも同じ
だって思いだす事をやめたから
いつもと同じ私の答えに
先生は安心したように
そして少し悲しそうに
「そうか…」
と答える
「うん
じゃあまたね」と
2分にも満たない
診察をすますと
私は診察室をでる
「真山さん」
次の患者さんが
呼ばれる声がする
真山さんであろう人が
立ち上がる
普通の光景なのに
私はなんだか思わず
立ち止まってしまう
なんでだか
すごく懐かしいような気がして
立ち上がった彼は
私の前を横切って
診察室へ入っていく
すれ違った瞬間
甘い香水の香りが残る
…知ってる
顔だってそんな
はっきり見た訳でもないのに
そう感じた
急に頭がくらくらして
胸が痛くなって座り込む
それに気付いた佐竹さんがかけよってきて
大丈夫?と陽菜に
声をかける
陽菜は平気と言ったけど
その平気と言った声が
全然平気じゃなかったのか
心配して病院の出口まで
一緒に行ってくれた
久しぶりに外は
雨が降っていた