キミのトナリ




記憶が丸ごとなくなってた
というよりは










本当に今まで忘れてた
という感じだ











その時の男の子は
隆太だったんだ…







陽菜と隆太は
病院で会うより前に
出会ってたんだ











今までなんで忘れてたんだろう






なんで気付かなかったんだろう










陽菜は深く
一度深呼吸をして







バスケットボールと
シューズの音だけが響く




体育館の重い扉を開ける






やっぱりそこには
熱心にバスケをする隆太がいて








一瞬だけ





出会った日に
戻ったような感覚になる



「隆太」




陽菜が呼んでも
隆太は返事をせずに





あの日みたいに
前だけをまっすぐに見ている






隆太のなげたボールは
しゅっと音を立てて
高く綺麗な弧を描いて

ボールがゴールに入る







ころんとボールが転がる



「何…?」



と隆太はゆっくり振り向く





どこかあの時の面影があって
…なんで気付かなかったんだろう




と再び陽菜は思う






ずっとずっとあの時より
バスケは上手くなってたけど






根本の部分は
変わってない…



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