『舞桜』
「そうだよ?」
東条さんが答えてくれたけれど、信じることはできない。
だって、これは、
「こうきゅうれすとらんでしょ…」
「そう?」
東条さんは悪気はなさそうだけれど、でも、
「学生の食堂は、もっと、こう、ですね?
アットホームな、賑やかなものでして、…」
「香ちゃんにそれを言っても無駄よ。
その子、根っからの箱入り娘で家はホテル経営だから、きらびやかな世界が基準なの。」
「ホテルって、東条ホテルですか?」
「あら、察しがいいのね。
そう、あの高級ホテル。
香ちゃんの家も似たようなつくりみたいよ。」
東条ホテルなら、覚えている。
過去の桜花、さくらの死んだ父が経営していた美耀Companyの取引先だ。
仲が結構よかったらしく、同い年の娘が居るとかで一緒に遊ばせようとしていたが、
わたしは雫、先程会った志賀雫から離れなかったので、結局遊ばなかった。
同い年の娘というのは、東条さんだったらしい。
「やっぱり生徒会に入ってらっしゃるだけありますね、東条さん、すごいです。」
ほとんどを嘘で通している桜花にしては、正直に言ったことだった。
しかし、
「やめてください。」
返って来たのは、同じ少女が言っているとは思えないほど強気な言葉だった。