Je t'aime?
「…ウジェーヌ、こっち見てしゃべってるね…って、怜奈、泣いてるし…」
私の前に立っていた紗江子が振り向いた。
「まだ泣いてないけど」
「…まだ、ね」
先週までの紗江子なら、また茶化されるところだけど、あの電話の日から、彼女はそういうことを言わなくなった。
私のウジェーヌへの想いは、私と紗江子の秘密。
だけど、
「ちなみに、ウジェーヌとは明日も遊ぶ約束してるんですけど」
「…なのに、なに泣いてんのって言いたいんでしょ」
「わかってるじゃん」
「わかってるけど、勝手に泣けてくるんだもん」
こういうところは、相変わらずだった。
「…オンナゴコロでしょ」
と私が小さくぼやくと、一旦前を向いた紗江子がまた振り向いて、
「あ、それ、祐太さんに言ってやろ~」
と言う。
「やめてよ、バカ紗江子」
私はクスクス笑う紗江子の背中を、パシッと叩いた。
壇上に視線を戻すと、なにも知らないウジェーヌが笑顔で話している。
気のせいか、紗江子の言うとおり、私たちのほうを見ているように思えた。