Je t'aime?



「俺は最初、思い出作りなんだと思ってた」



「思い出…」



「怜奈は外国人と話すの初めてだって言ってたし、いい経験だな程度にしか考えてなかった」



祐太がポットに残っていたダージリンをカップに注いだ。



ちょうどそのとき、隣のテーブルに若い女の人がふたり、案内された。



だから私たちは、ますます小さな声で話しを続けて、そのせいで、余計に険悪な雰囲気になってしまったように思えた。



「短期留学生を相手に、こんな思いさせられるとは思わなかったよ」



「それはっ…」



私も同じ、と思った。



でもそんなこと、言えなかった。



「…ほんと、ごめん」



ただ謝るしかできなくて、紗江子との電話の再現みたい、と思った。



そのとたん、自分の情けなさに嫌気がさして、鼻の奥がツンとした。



そして、唇を噛みしめた努力もむなしく、私の目から涙が落ちた。



「でも怜奈、俺と別れたいって言わないんだね」



私はちょっと鼻をすすって、コクリと頷いた。



「紗江子ちゃんの忠告が効いてるのかな」



少し、祐太の口調が柔らかくなる。




< 158 / 254 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop