Je t'aime?




ウジェーヌは、握った手をなかなか離してくれなかった。



私も、離そうとはしなかった。



今にも涙がこぼれ落ちそうで、でも泣いちゃいけないと思ったから、下を向いて、唇をかんでこらえた。



ガミくんのご両親も、ガミくんも紗江子も、なにも言わなかった。



空港のアナウンスが、もう時間だと告げる。



ウジェーヌの手が、ちょっと緩んだ。



ああ、本当にお別れなんだ…―



今になって、やっと実感がわいた。



ウジェーヌが一歩私に近づいて、私の頭のてっぺんのあたりに、彼の顔があるのが気配でわかった。



「レイナ、さようなら」



と小さな声が聞こえた。



でも私は、涙が落ちないようにするのに精一杯で、なにも言えなかった。



心の準備はしてきたはずなのに、突然訪れた別れのような気がしてならなかった。



心の中で、本当に行っちゃうんだ、いやだ、いやだ、とずっと繰り返した。



黙ったまま、ときどき鼻をすする私に覆いかぶさるくらいの距離まで、ウジェーヌが体を近づける。



短パンのポケットから、おそろいのストラップがのぞいていた。



それからウジェーヌは、私の耳元まで顔を近づけて、今まででいちばん優しい声で、こう囁いた。




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