Je t'aime?
「行くよー。どうかしたの?」
「いや、夏休みのこと決めようかなって思ってさ」
ガミくんは、急に声を小さくした。
たぶん、ウジェーヌが夏休みの間も日本にいることを、ほかのクラスメイト(とくに女の子)に知られたくないのだろう。
それを聞いたウジェーヌが、
「ブラスバンドのれんしゅう、しなくていいの?」
と心配そうにガミくんを覗き込んだ。
「あれは別にいいんだよ、遊んでるようなものだから」
「そうそう、気にしないで」
ようやく平熱になってきた私も、相槌を打った。
あはは、とウジェーヌが手を叩いて笑う。
「…そんなにおかしい?部員がいないってのが」
紗江子に冷たく言われても、まだ笑っている。
さっきまで外にいたのか、ウジェーヌの額にはうっすら汗が光っていて、弾けるような笑顔をさらに元気いっぱいに演出していた。
おととい倒れたときとは別人みたい。
紗江子があんなことを言うから、つい意識してまじまじと見てしまったけど…。
見れば見るほど、キレイな顔立ち。
こんな人が私のこと気に入ってるなんて、あるわけない。
きっとフランスでは、キラキラ輝くパリジェンヌが、彼の帰りを待ちわびているに違いないのだから。