第二ボタンと春の風


教室に戻ると、麻衣はもういなかった。

机の上に1枚のルーズリーフがあって、
先に帰るね!と書いてあった。

驚いたのはプリントが全部閉じ終わっていたこと。


「麻衣に悪いことしちゃったなあ…」

「親切な人だなー」

「池田麻衣っていうの。
同じテニス部なんだよ」

「へー。
やけにかわいかったよなあ」

「はあ!?」

「え?
あ、いやいやいや!」

「どーぜ私はぶさいくですー」


私がカバンをつかんで
教室を出たら、
石井が笑いながらついてきた。


「すねんなよー」

「すっ、すねてないし!」


帰り道に笑い声がはじけて、
オレンジ色の空に溶けて消えた。


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