碧の記憶、光る闇
哀願する口調ながら、その冷ややかな視線が健吾を責めているようで、早くこの場から逃げ出したくなった。

『仕方ないだろ…付き合いなんだから。男は付き合い断ってたら仕事も何も出来なくなっちゃうんだよ。飲んで来るのも仕事の内だ。我慢しろ』

自分で早く帰ってこいと言いながら美津子は既に奥に引っ込み洗濯物をたたみ始めた。

(こういう所が嫌なんだよ…全く可愛いげが無いと言うか…どうしてこんな女と結婚しちまったんだろ)

冷蔵庫の隅に身を寄せ美津子の視線が届かないのを確認してから健吾は衣服に浮気の痕跡がないかチェックした。
いつかは安物の香水がべったりと臭い弁明に四苦八苦した事がある。

その姿を流しに置かれた鏡を通じて美津子は見ていた。
氷のように冷たい視線は一点を凝視し見る者をゾッとさせる。

必死でスボンの折り返しや上着のポケットを調べる健吾の間抜けな様子を見ていた美津子は溜息をついて、何時もの表情に戻った。

ここ数年心から笑った事がない。
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