碧の記憶、光る闇
『前にも言ったが…』

『何ですか?あなた』

『沙耶を病院に連れて行く事を真剣に考えた方がいいぞ。このままでは何時か困った事になる』

無表情だった美津子の顔がこの時ばかりは一変して真っ赤に染まった。

『その話はしないで下さい。前にも言った通り沙耶を病院に連れて行く気はありません。沙耶は私の娘です、私が治します。何処にも行かせません』

強い口調できっぱり言う。

美津子がはっきりと意思を示すのは沙耶の問題に遭遇した時だけだった。

『治すって、その奇妙なお祈りでか?近所でも噂になってるぞ、川村の嫁に変な物が乗り移ったって…俺の立場も考えろ』

1年程前から美津子は新手の新興宗教に浸っていた。

その悪魔的とも思える儀式や祈りを捧げる様を何度か健吾も見た事があるが、到底まともな物ではなかった。
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