碧の記憶、光る闇
『それでケガは大丈夫なの?無理に出勤してこなくても良かったのに』

『大丈夫よ。私がいないと会社が回らないでしょ?』

軽口を叩く碧だが静香の方はかなり心配そうである。

まあ体中包帯だらけなので心配するなと言う方が無理なのかもしれないが。

総務部長に面会に来た来客へのお茶出しの為に給湯室に来た静香は、付いてきた碧に昨夜の一件を聞き驚いた。

『でも本当に警察に届けなくてもいいの?』

『うん、暗かったから私のこと見えなかったのかもしれないし、それにあんまり騒ぎを大きくしたくないの』

『そうねえ…確かに警察ざたとかになったら会社の方も良い顔しないでしょうね。でもストーカーとかだったら付け上がるかもしれないから注意しないと…』

出来上がったコーヒーをトレイに乗せて静香は廊下に出た。

この不景気の中、企業再構築の名のもと会社は従業員のいかなる埃も見逃さないよう目を尖らせている。

ここを辞めても行くあての無い碧はあまり大騒ぎして目を付けられたくなかった。
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