碧の記憶、光る闇
その声が終わらない内に茶色い子牛のような物体が炎を蹴散らしながら飛び込んで来た。

それを見た碧も驚いて思わず後ずさる。

『碧!早く!』

茶色い子牛かと思ったのは濡れた毛布をかぶった静香で、その形相は普段の清楚な感じとは想像もつかない程、修羅のような表情をしている。

(ああ…静香ってやっぱり美人だなぁ…炎が反射してとっても綺麗…)

立ちすくんで動けない碧の手を思いっきり引っ張った静香はその濡れた毛布で二人の体を包み込み碧の体を抱きしめた。

『碧!しっかりしなさい!』

『もう駄目よ…』

『甘えるんじゃない!』

背骨がきしむかと思える程、左手一本で力強く碧を抱え込んだ静香はそのまま走って入口に突っ込んだ。

炎が濡れた毛布を焦がし嫌な匂いを立てるが十分に水を含んだそれは熱を寄せつけない。

半分崩れかかったドアに静香が体ごとぶつかると燃え盛るそれは一瞬にして砕け落ちた。

勢い余った二人はそのまま隣のゴミ置場に突っ込む。
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