碧の記憶、光る闇
どれぐらいの時間が過ぎたのだろうか。
気付いた時、碧は暗闇を走っていた。

(まただわ…もう嫌!)

半ば諦めムードで、それでも僅かな抵抗を試みるが四肢は自分の意思とは別の何かに支配されているみたいに言う事を聞かない。

そして何時も通りぽっかりと光る落とし穴のような物を見つけた碧は吸い寄せられる様にそこへ走った。

(駄目よ…駄目だったら)

顔を背けようとしても後ろから大きな手で頬を挟みつけられている様に動かない。

そして何時もの血走った瞳…

目をそらす事も出来ず、必死で恐怖と闘いながら碧は両方の拳を顔の辺りに構えた。

自分の拳程の大きさがあるかと思われる巨大な瞳が碧を見つめる。

その真っ赤に充血した瞳は何か物憂げな哀しみを抱いているようにも見えた。

突然その『鬼』が口を開き真っ赤な舌を突き出した。

それは唐突に眼前に現れ碧の頭を飲み込まんばかりの勢い。
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