碧の記憶、光る闇
男達二人の間に目に見えぬ火花が散るのが碧には、はっきりと見えた。

「私が買ってきます。碧、何でもいいでしょ?適当に買って来るわ」 

なんとなく不穏な空気を敏感に感じ取ったのか静香がさっと立ち上がり病室のドアを開けた。

「あっ…私も行く」

「何言いうんだ、寝てないぞ駄目だぞ、あんまり母さんを心配さすんじゃない」

厳しい口調で制する肇を無視して碧はベッドを飛び出した。

「大丈夫だってば、ずっと横になってたから気分が悪いの。お願いだから少し歩かせて」

雅彦と和哉はお互い何か言いかけてから相手の出方を牽制したかの様に横目でにらみ合った。

普段は仲の良い親友同士なのだが、碧が絡むとどうもぎすぎすした関係になる。

病院のスリッパを引っ掛けた碧はピンクのパジャマ姿のまま廊下に飛び出した。

「わあ!静香、驚かさないでよ」 

「だって廊下に出たら碧が私も行くって言ってるの聞こえたから待ってたのよ」

驚く碧を尻目に平然と言ってのけるあたりは、同じ年なのに、かなり年上に感じる。それでもさりげなく腰に手を回して碧が歩くのを支えてくれる様な静香の優しさが碧はたまらなく好きだった。

「ねえ碧、あんたうなされてたよ、また例の夢見たの?」

「うん…もう慣れっこになっちゃった。でも分ってても怖いのよね…やっぱり何か思い出す前兆なのかなあ」

「さあ、それは私には分らないけど…でも和哉さんちょっと変じゃない?」

「変って?」

頭では分っていても自分の口からそれを出すのは何か禁句のような気がして碧は白を切った。
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