碧の記憶、光る闇
「気がつかないの?和哉さん碧の事、愛してるわよ」

「まさか…それって兄妹だからでしょ?私もお兄ちゃんのこと好きよ、優しいし、それに…」

「違うわよ、碧も本当はわかってるんじゃないの?和哉さん、碧の事妹としてじゃなく女として見てるわ。間違いない…あんたを愛してるのよ」

「・・・」

本当はずっと昔から分っていたのかもしれないし考えてみれば思い当たる節も数多くあった。

碧が沖田家にやってきた時、和哉は小学校6年生だったのだ。12歳といえば思春期真っ盛りの多感な年頃である。

そんなところにいきなり見ず知らずの2歳年下の少女が今日から妹になりますといってやってきたのである。
優しい和哉はすべてを受け入れ碧の事を今日まで守ってきてくれたが、所詮碧を妹だと思えというほうが無理なのかもしれなかった。

「黙ってるところを見ると碧もそう思ってたんじゃないの?前にも言ったけど、あんたと和哉さんは血が繋がってないんだから法律的には結婚できるのよ。碧にその気がぜんぜんなくて雅彦さん一本やりなんだったらあんまり思わせぶりな態度取っちゃ駄目よ」

「そんな思わせぶりだなんて私…」

「碧にそんなつもりがなくったって和哉さんは碧が好きなのよ、分らないの?」

珍しく少し言葉を荒げた静香に碧は驚いて黙り込んだ。

「…まあ、決めるのは碧だから私は何も言わないけど…でも自分の気持ちに正直にならなきゃ駄目よ。私がそばから見ている分だと碧,雅彦さんのこと本当に愛してるの?私にはそうは見えない。あんたが好きなのは和哉さんでしょ…いいかげん目を覚ましなさい」

最後のほうは母親のように優しく諭しながら、碧の肩を抱く静香に碧は自分の気持ちが解らなくなって、廊下脇のベンチに腰を下ろした。

点滴を下げた車椅子の老人たちが二人をものめずらしそうに横目で見ながら立ち去っていく。
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