碧の記憶、光る闇
『碧?起きてるか、遅刻するぞ』

そう言って入って来たのは兄の和哉。

てっきり妹の碧がまだ眠っていると思っていた和哉はTシャツで胸を隠す碧を見て慌ててドアを閉めた。

白く丸みのある胸が一瞬目に写って鼓動が高鳴る。

『ゴメンゴメン、未だ寝てるのかと思ってさ…先に下へ行っとくぞ』

『うん、私も着替えたら直ぐに行く』

シャツを頭から被った碧はブラシで少し髪をとかしてからカーテンを開けた。

『お兄ちゃん顔赤くしちゃって』

和哉の慌てた様子を思い出し笑みが浮かぶ。

兄の和哉は碧より二つ年上の27才。地元の高校教師をしていて妹の碧には昔から殊更優しかった。

端正な顔立ちの和哉は、学校でも女子高生に大変な人気でバレンタインには紙包み一杯のプレゼントを持って帰り、殆ど食べ切れずに捨ててしまった事がある。

1階のダイニングに降りた碧は何時ものコーヒーの香りに目を細めながら明るく声を掛けた。
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