碧の記憶、光る闇
「此処が碧の生まれたところなのね・・・ここで見つかった以前は碧じゃないもん。もういいじゃない、碧はここから始まったのよ」

ガードレールに腰掛けて静香が言った。碧も黙って静香の隣に腰をおろした。しばし無言で足を宙に泳がせる。

「なんだかしっくりしないなあ・・・この場所を見ればきっと何か思い出すと思ったんだけど・・・やっぱりもう一生思い出さないのかなあ」

それには答えず静香は黙ってタバコに火をつけた。

携帯用灰皿を取り出し、ため息とともに紫煙を吐き出す。
差し出されたタバコをくわえた碧は火をつけてもらい軽く吸い込んだ。とたんに激しく咳き込む。

「よくこんなの吸うね・・・超まずい」

「やめようとは思うんだけどね、意思が弱くてさ。碧も吸わないほうがいいよ」

「吸わないほうがって、今静香がすすめたんじゃない」

「私は碧が落ち込んでるから、そっと差し出しただけよ。無理強いはしてないわ。それよりこれからどうする?」

静香の言葉に碧はしばらく考え込んだ。

何故だか説明は出来ないが、自分が発見された場所にくればきっと何か新しい道が開けると思っていたのである。当てが外れた碧は途方にくれた。

此処が駄目なら何処に行けばいいというのだ。自問しながら何処までも青く広がる空を見上げる。
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