碧の記憶、光る闇
死んだ妹の事は知っていながら肇達同様に隠していたが、碧が発見された状況については全く知らされていなかった和哉は、騙されたとの思いから肇と夏美を激しくにらんだ。

「父さんも母さんも酷いよ…どうして今まで…碧がどんな思いで記憶を辿ろうとしていたか分かってるのか!。あんたら最低だ」

「やめてお兄ちゃん…いいのよ。もういいから。私怒ってなんかないよ。別に悲しんでもいない。ただちょっと驚いちゃった」

無理に作り笑いを浮かべながら碧は涙にぬれた目を皆に向けた。

「私のお父さんとお母さんは此処にいるわ。私は沖田碧…そうでしょ?お兄ちゃん」

「碧…俺は…俺は碧のお兄ちゃんなんかじゃない!」

罪悪感から俯いていた肇と夏美は和哉が何を言い出すのかと驚いて顔を上げた。

「どうして?、私は…」

「俺は碧が好きだ。俺達は血が繋がっていない。法律的には結婚できるんだ…碧、俺は…俺はお前が好きだ」

本当は和哉の自分を見る視線で兄の想いはずっと昔に分かっていた。

でもそれを認めてしまうと、自分が沖田家の人間じゃなくなってしまうような気がして碧は怖かった。そして心の底では自分も和哉を愛している事を…。

「あっ…あの…」

一度に色々な事が起きすぎたのか、記憶喪失を起こすほどのダメージを受けた碧の精神は耐え切れず、わなわなと体が震え始めた

「碧…俺の方を見てくれ!」

碧の震えを止めようと後ろからきつく抱きしめる。

「和哉…お前…」

肇は自分が二人を此処まで追い込んだのかと目の前が真っ暗になっていくのが分かった。

その横で夏美も放心状態で息子が娘を抱きしめるのを見ている。

時間さえも止まってしまったかのような静寂の中で、和哉に抱かれたまま、しゃくりあげる碧の嗚咽だけがそうではない事を告げていた。
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