碧の記憶、光る闇
「私、本当の倒れていた場所に行く」

事情を知らない雅彦は意味がわからず和哉の方を見る。渋々和哉は2日前に沖田家で起こった出来事について手短に話した。

「そうだったのか碧ちゃん…喫茶店でおばさんがそんな事を…」

「うん。きっと私あのおばさんに子供の頃あっている筈だわ。川村沙耶として」

「どうしても行くのか?」

「うん、お兄ちゃんには心配ばっかりかけてごめんなさい。でも私どうしても行きたいの。きっと私を生んでくれた人…川村健吾さんと川村美津子さんはもう生きてはいないと思うわ。生きていれば私を探すはずだもの。でもせめて生まれ育った場所だけでも見たいの。ねえお願い」

自分の生みの親の事を両親とは呼ばずに生んでくれた人と表現した所に今の碧の思いが隠されていた。

妹の哀願に困ったような表情を見せていた和哉だったが承諾せざるを得なかった。

ただそこに碧を行かせると碧が川村沙耶に変ってしまい、もう二度と帰ってこないような気がして和哉は怖かった。

「俺も一緒にいくよ沖田、紺野さんもいっしょに行かない?」

雅彦の言葉に一瞬、部外者は口を出すなと言いかけた和哉だが、なんとかその言葉を飲み込んだ。

「…どうする碧、一人では行かせられない。行くのなら俺もいっしょだ。それと父さん達にも許可をもらう。それが条件だ」

「いいわ。静香達もついてきてくれるんなら心強い。お父さんには私から言うわ…明日はどう?明日行かないともう来週になっちゃう」

肇の許可を得る事が出来ればという条件つきながら結局4人で行く事になった。

静香の車は軽だし和哉のは二人乗り、雅彦のは車検中と誰の車で行くのかが問題になったが結局レンタカーを借りて1台で行く事にする。

店員が数名で床掃除をするのを横目で見ながら碧は明日がとてつもない遠い日のような気がして、その重圧に押しつぶされそうであった。
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