碧の記憶、光る闇
「碧はそうでも金沢はそうは思ってないみたいだぞ。多分碧にぞっこんだ…碧が誰を選ぼうとそれは碧の自由だ。自分の人生なんだから自分で決めればいい。おまえは辛い思いばかりしてきたから幸せになる権利がある」

「ありがと、お兄ちゃん」

そういいながらも心の中で雅彦への別れの言葉を考えている自分に碧は気付いていた。

一度動き始めた和哉への想いは止め様が無い。和哉と出会ってからの15年間という歳月は雅彦の入る余地の無い程長く濃いものであった。

「あの指輪高かったでしょ?」

「高いよ。冗談抜きで給料の3ヶ月分だ。でもまだ結婚式と新婚旅行の費用ぐらいはのこってるから安心しろ」

「披露宴は恥ずかしいから地味でいいんだけど、新婚旅行は世界一周って決めてたんだけどな」

「かんべんしてくれよ。碧が結婚してくれるんなら本当に借金しちゃうぞ」

笑いながら和哉が答える。人見知りで奥手な碧も和哉とは心を許して気軽に話が出来た。

握られた手に少しだけ力をこめて握り返す。

右手を通して伝わる心地よい和哉の体温に、さまよいつづけた碧の精神はようやく安住の場所を見つけたかのように落ち着いていた。
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